あたしの先輩

大学三年生の頃、新卒枠としてガツガツ就活してた。だって大学の同期、周囲がそんな感じだったから。早稲女としてその名に恥じぬよう、そんな思いしかなくて、大手マスコミ、キー局ばっかり書類出して、書類はなんだかんだでちゃんと通るんだけども(だってしっかり書いていたし)面接でいつのまにかお祈りされてる(だって……話す時間なんてもらえない、30秒でどうやって相手を魅せるかの面接だった)。

 

 

迷走していたあの頃よりは今のほうがちゃんと出来てる。就活。まぁそれはおいといて。

 

 

そんな大学3年のあたしにとってのアイドルは、同じ研究室の先輩(男)だった。おもしろくて、まぁ多少は下品で、男の子って感じのノリをひたすら引きずってて、でも動画編集がすごく上手で、こだわり強くて、話してて楽しくて、かっこよかった。ファンだった。そんな先輩はテレビ局を受けて、キー局に最終選考で落ちちゃって、結局違う分野だけど有名な会社に就職して、海外に行って、いま映画作ってる。

 

 

正直、あたしがマスコミを受けていたのって、まあ両親がテレビ局勤務なのは多少なりとも影響あるとは思うけれど、それ以上にそのアイドルの影響がものすっごく大きいんだと思う。好きなものに影響されるタイプなので。結局、最後は自分で、自分の経験から将来を決められたけど。

 

 

アイドルからはテレビ局の就活についてのアドバイスとして、「目立ったもん勝ち」と言われた。アイドルは面接前に武者震いするくらいの自信家で、言うことは的を得ていてかっこよかった。倍率なんて、自分が受かるか落ちるかだけなんだから、いつだって2倍だと教えてくれた。ものっすごい人たち、しかもなんだかキラキラしている人たちの中に放り込まれたような感覚で就活をしていたあたしは、そんなふうに考えられるアイドルのことをまたさらに好きになってしまった。

 

 

キー局のひとつを一次面接で落ちてしまった私は、アイドルに教えてもらったように、印象に残るような自己紹介を考えた。余談だけれど、なんと、一年後かそれくらいにそれとそっくりな内容をテレビCMに使われた。どれくらいそっくりだったかっていうと、それを練習でやってみせた友人からラインがくるくらい。食品と就活をからめたCMで、ああ、あたしだと思った。

 

 

さて。

 

 

おじさんたちに笑ってもらえるくらい、驚かれるくらい、私の自己紹介はすごくキャッチーだったけれど、結局最終面接で落とされたり、たとえ笑ってもらえてたとしても落とされたり、「テレビ局で良いのかなぁ、でも内定もらえたらかっこ良いし」「アイドルに認めてもらいたい」という理由で受けているあたしでは受からないものだってことがわかった。

 

 

それで、落ちつつ、内定がほしくてほしくて焦っていたあたしは、人一倍焦っている自信があった。なぜなら、実は、アイドルと約束していたのだ。内定もらえたらデートしてくれるって!!!!!

 

 

アイドルはアイドルだから、付き合うなんて到底考えられるものでは無かったんだけど、デートはしたかった。それで、思い切って誘って、就職先決定を条件にデートしてもらえることになった。

 

 

でも、1年かけてやっと就職先を決めて、やっと、やっとデートして、アイドルとはデートするもんじゃないってことが分かった。なんだか緊張するし、楽しくなくて、私が楽しくないことがアイドルにも伝わっちゃってて、悪いなと思った。そのあとはなんとなく一緒にいたり、いなかったりして、あたしも彼氏が出来たり向こうは海外に行ってしまったりして、あーあ、疎遠になって、いま。

 

 

先述したように、いま、アイドルは映画をつくってる。その才能、すっごくかっこいい。でも、あの人はもうあたしのアイドルじゃない。すっごく、すっごくかっこいいけど。アイドルから卒業できたあたしだってあの頃よりはかっこいいでしょ、またアイドルに会いたいな。

 

 

今週のお題「アイドルをつづる」