テレパシーを信じるおじさん
テレパシーを信じるおじさんが来た。役所の、窓口ではなくて私たちが普通に座って仕事しているところに、余りにも自然に、しれっとやってくるもんだから、仕事で来た人かと思った。そしたら、ただの市民だったので驚いた。
「いやね、テレパシーって、役所で許可してるの?」
「テ、テレパシー?」
そのおじさんが考えているのは、この世にはテレパシーってものが存在していて、その力は悪用できちゃう。例えば、障害や病気で話せない人の考えを読み取るという良い(かどうかは知らないけど)使い方でテレパシーを使う人がいたとする。でも、その人がテレパシーを悪い方向で使うかもしれない。役所ではちゃんと管理できているの?
そういう感じの話だった。
私は、こういう人を見ると、悲しくなってしまう。堪らなくなって、かわいそうに思ってしまう。ああ、この人は、そういう世界で生きているんだ。あなたがそういうことを言っても、ここでは理解されないこと、笑われてしまうことすら分からないんだ。そう思うと苦しくなる。
でも、その人にとっては笑われることなんてどうでも良いんだろうな。というか、そういうところで生きてないんだろう。私の世界にいない人。入らない人。入れない人。入れてあげられない人。
もちろん私は、テレパシーを管理していない。